静寂とざわめきの間に
word by リゲル様
               


静かな春の夜の隙間に訪れる衝動と胸騒ぎ

月明かりに浮かび上がる影に棲む暗く淫らな意識

赤い鱗を身に纏うおまえを虜にし、

凶暴な衝動で締め上げおまえを追い込む。

おまえの身体からは湿った匂いが立ちのぼり、獣の欲情に溺れる。

男はその赤い鱗を剥がす。

おまえは、ひんやりとした外気に曝され、白い肌に滲む感覚に慄き震える。

瘡蓋の如き鱗を掻き毟る開放感に震え、ざわめく感覚の虜になる。

傷つきやすい脆弱な心根を護っている鎧の鱗をまた1枚剥がす。

したたかな女の駆け引きの如き赤き鱗を、また1枚と剥がし追い詰める。

感覚が溢れ出し白い肌が充血した粘膜となり、男の湿った赤い舌がそれを舐め上げ、混
ざり合い蕩け合い1つの皮膚になるよう舐め上げた。

男は確かな感触と嬌声が欲しくなりあばらの下のわき腹に少し噛み跡をつけた。女は体を
捩り抗い避けようとしたが、男の強靱な力には無駄な試みであり男を喜ばせただけであっ
た。男の狡猾な企みの前では女の抗いは媚薬でしかない事は百も承知の枕言葉。

男も女のすべての反応を味わい確かめ、脳裡に刻みつけようと執拗に愛撫し女を愉しん
だ。女は軋みながら、弾みながら其れに呼応するように得体の知れぬ快楽が体の芯に溢
れだそうとしていた。

男の淫らな囁きにさえ、ちょっとした刺激にさえ、抑えきれず反応していく肉のざわめきが
女の白い皮膚に赤い波紋を浮かび上がらせていた。

男は女の耳朶をかじりながら意地悪な囁きと淫らな囁きで女の心に血の叫びを溢れさせ
た。男への愛おしさを十字架に繋ぎ、血と肉の快楽にすり替え、試し、淫らなざわめきで弄
び、穢し、女の心を縛り虜にしていった。

女を絡めた絆に滲み込む淫靡な匂いに男は知らず酔いしれ危険な綱渡りの一歩一歩に
震え、暗く深い闇がそこにあることを見失っていた。

男は快感に震える女に潜む得たいの知れぬものに不安を抱いた。

この女が何処からきて、何処へ行こうとしているのか。

或いは、この女は何処に繋がれ、何処に開かれているのか

そして、この女の淫らな色情の赤い経絡を誰が刻み肥大させたのか。この女の向こうに
脱ぐい去ることのできぬ暗い翳の蠢き。女を追い込んだ積もりで実のところ追い込まれて
いるのは男の俺ではないのだろうかと。俺は何処に迷いこみ何処に行こうとしているの
か。

しかし、男は視線の定まらない呆けた蕩けた眼差しで女の顔に頬ずりし、、求道者のよう
な深い愉悦に刻まれ恍惚とした女を優しく愛しく抱きしめ、思わず男は叫びそうになった。

男は心に浮かび上がった言葉を押し殺し、ざわめく心の底に沈めた。あらかじめ失われた
言葉が、男に、終わりの無い試みを女に刻もうと赤い情熱に駆り立てる

深く暗い迷路に浮かび上がった、すべての迷路の秘密を解き放つ言葉。すべてと引き換
えにしてもまだ重い言葉を男は殺した。そして、また女の底のないざわめきが男を飲み込
もうとしていた。女はその営みの中から、ある確信を。男はその女の愛おしさと切なさと情
熱と欲情に、男は力の限り女を抱きしめ、女を押し付け、一つに解け合う事を願い、呪文
と苦痛を刻みあたえた。

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